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免疫専門のクスリ屋


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よもやま話

リスクとベネフィット

薬常連のお客様から処方薬のことを相談された。
処方薬に関しては処方した医師と調剤した薬剤師以外にはコメントできないのが原則だが、相談内容が「飲んではいけない薬」がらみだったので話を聞くことにした。
話の内容は個人情報なので記せないが、「飲んではいけない薬」に記載されている薬とだけお伝えしておこう。

少し前にも、「私が飲んでる薬が駄目だと本に書いてあった」と常連客に言われたことを思い出す。
その常連客のデータは処方薬、採血検査結果やCT画像等あらゆる入手可能なデータは管理させて戴いているので、処方薬の副作用も常に頭の中に入れておかないとならない。
因みに当店では処方箋を受けていないが、処方薬も分からないと相互作用の問題で一般薬すら安全に販売できなくなる。

その時は「そんな本を気にしちゃ駄目です」で流したが、短期間に続けて言われると妙に腹が立つものだ。
私はその手の本は読む気がしないので読んではいないが、反論する医師のサイトを見たことがある。そこにはコレステロールが低いから癌になるのではなく、癌だからコレステロールが低いのだと記述されていた。
癌だからコレステロールが低くなるとは限らないが、肝臓に腫瘍があるとコレステロール値は気になる。
コレステロールは食事ではせいぜい1割、残りは肝臓で合成している。
だから、肝臓に腫瘍が有って大きくなっていればコレステロールを作れなくなり、値は低下する。
仮にその患者のコレステロールが基準値よりも高くとも抗コレステロール薬は出さないのが原則だ。薬で下げてしまうと肝臓の働きが分からなくなるからだ。

コレステロール合性を阻害するスタチン系薬剤(HMG-CoA還元酵素阻害薬)のクレストールの臨床試験、17ヶ月17302人の試験で筋症状が出たのはクレストール群で10人、プラセボ群で9人だったそうだ。横紋筋融解症は降圧剤でも漢方薬でも起きる可能性はあり、外傷性でも起き得る。
一般的にスタチンの副作用である横紋筋融解症は頻度不明のものとして扱われているが、使用開始から4ヶ月以内が一番多く、その間に採血は必要だ。
症状としては大腿筋などの大きな筋肉が左右対称に痛む場合は可能性が高い。片方の腕や肩が痛いのは概ね関係ない。

薬は効果も有れば副作用も有る。
その為に常にベネフィット(利益)とリスク(副作用)を考えながら使うものだ。
しかし、副作用は必ず起きるものと、滅多に起きないものがあるので、実際は副作用が出てから対処するのが普通だ。
もちろん、不必要な薬は飲まない方が良いが、稀な副作用を怖がって必要な薬を飲まない方が将来的なリスクは多くなる。

前述の「私の飲んでいる薬が・・」のお客様から電話が有った。
歯科で歯周ポケットの腫れを取るためにフロモックスが4日分出されたが飲んで良いかとの相談だ。
本来なら処方した医師か調剤した薬剤師に相談すべきところだが、患者の状態を一番分かっている私に相談されるのは仕方ない。
この方はつい最近まで術後腸管癒着症で苦しんだ過去がある。
「抗生剤を飲んだら便秘になって、また辛い状態にならないか」とも言われた。
う~ん、確かに第三世代のセフェム系は腸内細菌を殺す働きが強い、当然お腹の中の有用菌も殺されてしまう。
一瞬の躊躇は有ったが、「飲んだ方が歯周ポケットの痛みは楽になるけど、お腹の乳酸菌も減ります。フロモックス使用と同時に多めに乳酸菌製剤を飲んで、食物繊維は水溶性繊維を多く摂ること、ゴボウなどの不溶性繊維は極力避けること」とアドバイスした。
暫くして、その患者さんは来店され「抗生剤飲んだら凄く楽になった。便秘もしなかった」と笑顔で話された。

ふ~、良かった。
リスクとベネフィットの天秤と対処をしても絶対は無い。
結果が良かったので、一つ肩の荷が下りた。

かかりつけ薬局制度が出来たが、こういう相談はどのように答えるのだろうか?
少なくとも私の頭の中ではもし、術後腸管癒着症の再燃が有った場合は赤尾先生に理由と判断を間違えた謝罪を述べて入院手配をお願いする手筈を考えていたのだが。
薬の判断は或る意味で賭けのようなものだ。

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