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よもやま話

老衰と心不全

「老衰」や「心不全」と聞くと死亡原因だと思っている方は多いだろう。

心不全には慢性心不全と急性心不全とがあるが老衰には急性は存在しない。

全ての生物には寿命が有り、樹木だと数百年もあるが昆虫では数ヶ月から数年、ネズミの類いは2年ぐらいと短い。

ヒトも残念なことだが必ず死ぬものだ。

老衰とは突然に起きるものではなく、徐々に内臓器官の働きが退化していくものだが、加齢とともにその速度は速くなっていく。
詳細に云えば神経伝達物質やホルモンも低下して、内臓だけで無く神経や精神にも影響を与える。

現在86歳の母は2年半前の9月の朝方にトイレからベッドに戻る際に転倒して大腿骨頸部不全骨折を起こし、その後特別養護老人ホームに入った。
自力の歩行は出来ず車椅子となり、手足の筋肉は硬化してしまった。
ホームに入ってから暫くして「長く生きずぎた」と母はぽつりと呟いたことがある。
嚥下困難から次第に食が細くなり、脱水と尿潜血から入院となった。

低栄養、脱水、腎盂腎炎と病名が付いたが、その根源は「老衰」だと思う。

一度退院して施設に戻ったが、やはり食べることが出来ない。

口以外から栄養を摂るには「胃管」「胃瘻」「中心静脈栄養法」の3通りあるが、「胃管」は鼻から入れたチューブで半消化もしくは完全消化された液状の栄養を入れる方法であり、鼻からのチューブがうっとうしく、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性を高めるので、通常は1~2ヶ月の短期間で行う方法だ。

「胃瘻」は内視鏡で簡単に付けられ、その入り口から栄養を入れる方法だ。
胃管よりは誤嚥のリスクは少ないが、摂取後に30度の角度で2時間程度過ごさせ、直ぐに仰臥させては逆流して誤嚥を起こすのは胃管と同じだ。

「中心静脈栄養法(intravenous hyperalimentation)」は「IVH」と略して云うが、鎖骨下静脈などの太い静脈から高栄養の点滴を入れる方法だ。
長期にIVHをする場合には皮下にIVHポートを埋めこむ手術が必要となる。

この3つの方法のうち栄養摂取で誤嚥が起きないのはIVHだが、感染症のリスクは否めない。
それで、悩みに悩んで「胃瘻」を選択した。

何に悩んだか?
それは老衰の程度がどの位だろうか?
内蔵機能が落ちると腸から栄養や水分の吸収が出来なくなる。従って胃管や胃瘻で消化された栄養を入れても吸収できなくなる。
それがどのくらい先に起きるかが想定できないことだ。
胃瘻が駄目なら経静脈高カロリー輸液となるが、やはり胃から入る栄養とは違い完全なものは存在せず年単位の長期は不可能だ。

画像を戴き「心胸郭比」を見ると明らかに心肥大。
若い頃から過激な運動はしていないので、これは心筋が衰えてきて反動的に心臓が大きくなっている証拠だ。
これは「心不全」が起きている証拠となる。
厳密に心不全の程度を知るには心エコーで調べなくてはならないが、採血で分かるのは「BNP」脳ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide)となる。

心臓が衰えれば肝臓や腎臓も疲弊する。そして、肝臓や腎臓が衰えれば心臓が更に悪くなると云う負のスパイラルが老衰だ。

また、老衰が進行するに従い免疫系も弱くなり感染症のリスクが上がる。

医学的には老衰の理解は出来るのだが、心情的には受け入れるのが難しいものだ。

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