逆流性食道炎で貧血
長いお付きあいの常連客が「私、貧血かな?」と来店時に言われた。
眼瞼結膜は白く、貧血を疑う。
血圧を測定してみても脈数に異常なし。そうだ、この方は降圧剤でα・βブロッカーを使っているから脈数に変化が出ないんだ!
普通は貧血になると酸素が減るので循環血液量を増やそうとして脈数が増えるのだが、βブロッカーは脈を減らすので判断が出来ない。
貧血の原因は出血なのか、鉄欠乏性なのか、赤血球が作れないのかと様々だから、鉄剤を販売する時には慎重になるものだ。
そこで、近医に理由を述べて採血のお願い状を認めた。
結果はヘモグロビンが6.6と異常に少ないのだが、これだけで出血なのか鉄欠乏なのかは判断出来ない。
特にこの方の場合は、かつて貧血だった時に赤尾先生が大腸癌を疑い、大腸検査で大腸癌が見つかった方だから貧血は気になる。
(ボルマン2型 限局性潰瘍型)
しかし、もう一つ可能性が否定できないのが逆流性食道炎のためにプロトンポンプインヒビター(PPI)を使っていることだ。
オメプラールが効かなくてパリエットに変更したら調子が良くないと云っていたのが気になる。
処方薬は処方した医師か調剤した薬剤師以外にはコメントすることも、中断することを指示することは出来ないのだ。
(当店は調剤はしていないが、癌患者さんの処方薬の把握はするようにしている)
検査結果を赤尾先生に送ると「入院して検査するように」と指示が出た。
先ずは胃の内視鏡検査や心電図や心エコー。
軽度心不全はあるが弁膜に異常は無かったはずだが・・・結果は異常なし。
大腸検査は2ヶ月前にしたばかりだったので再検査をする意味があるか担当医は迷ったようだ。
しかし、貧血が分かった段階で近医が鉄剤を出してくれていたので、入院中にも服用していたのでヘモグロビンが8.6と上がっていたのだ。
出血でも鉄剤でヘモグロビンは上がることがあるが、これは異常に増えすぎだから出血の可能性は低い。
となると、PPIが原因かもしれない。
食事中の鉄は2価だが、胃酸の働きで3価にならないと吸収されないのだが、PPIは胃酸を止める薬だから3価鉄にならないために貧血が起きたようだ。
添付文書に記載はあるが、極めて希な副作用のようだ。
貧血検査の時に近医にベリチームを出して欲しいとお願いしてあった。
「ベリチーム飲むようになったら逆流性食道炎が感じられなくなったので、パリエットは飲まなくなった」
鉄剤使用1ヶ月でヘモグロビンは10.8になり、血清鉄が基準値をオーバーしたので鉄剤は不要となった。
高齢者に多くみられる「逆流性食道炎」。
その多くの方がPPIを使用されているが、こんな副作用もあるのだと知って欲しい。
それを消化剤だけで解決できるのも希かもしれないが・・・
たまたま、この方が胃下垂だったから良かったのだろうか?
なんであれ、「今は脂物でも何でも食べられるようになった」と食生活も改善されたことは喜ばしいことだ。
「ところで、消化剤はいつまで飲んで良いの?」と質問があった。
「飲むの嫌?」
「調子良いからずっと飲んでいたいけど、副作用とか有るのかな?」
「歳とって消化機能は落ちる人は普通ですよ。死ぬまで飲んでください!」
「ずっと飲んでて平気なんだ。良かった!」
医師にも調剤した薬剤師にも上手く聞けない方だから、こうコメントしたのは薬事法違反なんだろうか?