特別養護老人ホーム
母と叔母が同じ特別養護老人ホームに入っている。母は車椅子状態だが叔母(母の姉 88歳)は元気に徘徊している。
ここの特別養護老人ホームの2階は全室ユニットタイプの個室で、1ユニット10名でAからFまでの6ユニットになっている。
母はBで叔母はFと両端の居室なのだが、毎日のように叔母は母の処に行っているようだ。
3月に退院した日に特別養護老人ホームに移ったのだが、その時点での衣類では冬になると薄くて寒いだろうと先月から衣類を揃えて持参しているが、今回はさんざん悩んで軽めの羽毛布団を新調した。悩んだ原因は重い布団は嫌いなようで、昔から電気式毛布を使って上は毛布一枚の生活をしていたからだ。
せっかく新調した羽毛布団が重くて嫌だと言われるかもしれない事を悩んだが、「これ軽くていいね」とすんなり受け入れてくれたので安心した。
特別養護老人ホームでは全ての衣類に名前を付けておかなければならない規則がある。
洗濯は個別に洗濯ネットに入れて洗ってくれているが、ネットに入らないものや汚れが落ちないものは再度まとめて洗うので持ち主不明となってしまうからと聞いている。
5年間風呂にも入らず、少なくとも2年は洗濯をしている様子は無く、今まで使用していた衣類は使う事ができない。
その為に全て新調しなくてはならないのだ。
下着にも布団にも靴にも全て名前を書くか、名前シールをアイロンで付けている。
「まるで幼稚園か小学生の子供ができたみたい」と女房殿は云う。
叔母の認知症はかなりのものだが、根が明るい性格なので助かっている。
「こんな靴下持っていたかな」と叔母が言うと「みてごらん、名前が付いているでしょう」
「あっ、名前が書いてあるから私のだ」とすんなり納得する。
「明日退院する」と云ったり「ここのアパートは良いね」と叔母は自分が特別養護老人ホームに居るとは思っていない。
毎日、母の処に行っているのだが、母の処に連れていくと「なんだ、あんたもここに居たんだ」と新鮮な驚きをする。
ホームでは様々な催事があるが、殆どがユニット単位で行っていて写真が各ユニット単位で掲示されている。
本来なら叔母のFユニットだけに映っているはずなのだが、他のユニットにも叔母の写真があるのだ。
何処でも真ん中で笑顔で写っている。
娘が「みっちゃん(叔母の通称)の隣に写って居る人お友達になったの」と聞いたときには「その人死んだかな?」
すると、写真に写って居る人は驚いた様に手を振って否定した(笑)
先月には娘は町内会の人だと思われていたが、今回は誰だか分からない様子。
「ヤスオちゃんの娘のユキだよ」というと「ユキちゃんはもっと小さかったはずだ・・」
今日は30年くらい昔にタイムスリップしているようだ。
それでも、私のことは遠くからでも認識する。
それがいつまで続くかは分からないが・・・
「最近は食欲が無くてね・・」と云うので「今日は朝食も昼食も食べなかったの?」と聞くと
「どうだったか???」自分でも覚えていないようだ。
持参したプリンを食べて「お腹いっぱい」と云いつつも3時に出されるホームのおやつも全て完食した。
「私はコーヒーが苦手でね・・」と聞いていたが、今ではコーヒーも飲んでいる。
好き嫌いすら忘れてしまっているようだ。
冷暖房完備で薄着でも寒くなく、風呂にも週に2,3回は入れてもらい、3食とおやつまで付いて、薬は全て看護師さんが管理して飲ませてくれる。
明日退院すると云うみっちゃんに対して「私、寂しいわ、せめて春まで居て欲しいな」と泣き真似して話を合わせてくれている職員さんが居る。
職員さんには本当に感謝している。
「ここは良いところだね~」叔母にとってはこれほど良い場所は無いだろう。