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トリプルネガティブ乳癌(TN乳癌)

マンモフラィー女性ホルモンにはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2つが有り、そのレセプターも存在する。
ホルモンレセプターでは無いが、Her2レセプターという名のレセプターも乳癌だけでなく様々な癌に存在するレセプターも有る。
その何れも「陰性」の乳癌をトリプルネガティブ乳癌(トリプル=3個が陰性)と呼ぶ。
かつてはHer2レセプターが強陽性は悪性度が高いという評価だったが、Her2に感作する抗癌剤が多数開発されるようになると「悪性で有ることには変わりないが治療薬が多く存在するもの」となり、その存在感は増すようになった。
プロレスラーの北斗さんが「5年生存率が50%」と発表した時に、この「トリプルネガティブ乳癌」だと分かった。
しかも、5年で50%の生存率となるのは腋窩(わきのした)リンパ節転移が10個以上の場合である。
リンパ節転移の数は予後に大きく影響するが、リンパ節から転移するのでは無くリンパ節転移が有ること自体が他に飛んでいる可能性が高いことを示すからだ。

乳癌はホルモン剤で長く生きられるものだが、ホルモンレセプターが存在しない乳癌ではホルモン剤が使えない。
頼みの綱の抗Her2薬も使えないので、乳腺専門医からは恐れられている乳癌のタイプであることは間違えない。
問題はCTに未だ写らない微小転移が抗癌剤で叩けるかどうかになってくる。
CTで写らない、言わば見えない敵に従来の抗癌剤を連射し続けて効果が有れば良いのだが、一度姿を現した場合は悲惨な結末となってしまう。
トリプルネガティブ乳癌の基本は乳房全摘が一般的だ。温存は出来ない。

もうだいぶ前のことだが、乳癌かどうか確定診断が付かない患者さんが居られた。
画像検査では癌の疑いが濃厚だが細胞診が出来ないのだ。
針を刺すと血液が噴き出すだけで「グレード3」としか細胞診は出てこなかった。
細胞診が判断できないときは組織診をする以外に確定診断が付かない、しかし、組織診用の鍵付き針やマンモトームを使えば出血がコントロール出来なくなる。
乳腺専門医の赤尾先生は「昔、一度だけ血液が噴き出す経験があるが、その患者は悪性の血管腫だった」と言われる。
仮に出血が無くても組織診をすれば1週間以内にオペしないと転移する可能性が高くなる。
確定診断は出来ても1週間以内に手術出来る施設は数少ないだろう。
少なくともがんセンターや大学病院では手術予約が4ヶ月以上も先まで埋まっているから対応は無理だと思う。

この患者さんは部分切除で乳癌であるかの確定を付け、再手術で全摘とした。
その間に再手術をするかどうか悩むことは多かったが結果的には良かった。
CTにもマンモにも写らない乳癌が乳房全体に広がっていたのが分かったのは生検だったからだ。

トリプルネガティブ乳癌では3年間再発が無ければ安心、5年無ければ無罪放免の完治とされる。
既に5年は優に超えたから安心だ。
この患者さんにもBRMstageは使用して戴いたが、それで再発が起きなかったという証拠はどこにも無い。
ただ、事実であることは抗癌剤の副作用が少なかったことだろう。
そう言えるのは、1回目の抗癌剤で起きられない程の副作用が出たというので聞いたところ「抗癌剤をする時は飲んでは駄目なんですよね」と言われたので「抗癌剤は回を重ねる度に副作用が強く出てくるのだから飲んでないと駄目」と飲み続けて貰ったところ2回目以降は副作用が極めて少なかったからだ。

昨年末に乳癌と診断された女性の場合でも、組織診をしていない。
私はマンモを観た時に嫌なイメージが有ったので全摘を薦めた。
赤尾先生は炎症が酷いタイプだからTN乳癌を疑っての全摘を薦めた。
生検結果でトリプルネガティブ乳癌が出た。
彼女も抗癌剤の副作用も軽く、無事に完遂出来た。
あと4年半再発が無ければ完治となる。

この両名ともお世辞にも綺麗とは言えない病床数102の藤村病院(上尾)でオペされた。
近くには埼玉県立がんセンターも有る地域だから、普通だったら選択肢にも上がらない病院だろうが、乳癌治療は病院の大きさでは無いと思う。
最低限の診断装置が有れば小さな病院でも十分に乳癌は対応出来る。
問題は優秀な医師が居るかどうかだけだ。

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