モルヒネと神様
「モルヒネ使うようなら、もう最後ですか?」と質問を受けることがある。
「いや、最初の段階でも有りますよ」と答えているが、一般的にはモルヒネは麻薬だから怖いと思われているのは事実だろう。
朝食を食べながらTVを見ていたら、小林麻央さんのブログで「モルヒネを拒んでいたけど、使ったら楽」と報道されていた。
こういう報道がでるのは、担当医師や薬剤師が十分に説明できていなかったのかな。
まあ、未だにモルヒネが怖いと言う医者もいるようだけど(笑)
術後の疼痛緩和で硬膜外麻酔にモルヒネをミックスすることなんて普通にあるのに、それも拒むのは辛いだけですよね。
少し難しいかもしれませんが、麻薬系鎮痛剤をオピオイド系鎮痛剤と言います。
オピオイド受容体は複数ありますが、特にμ(ミュー)受容体に拮抗する薬が痛み止めの効果が高いのです。
最近ではモルヒネ以外に合成麻薬も多く、点滴以外に内服の錠剤、顆粒、液体もあります。また皮膚に貼るタイプのパッチ剤もあります。
どんな薬にも副作用が有るようにオピオイド系鎮痛剤にも副作用はあります。
個人差もありますが、吐き気や嘔吐・・・これは3日もすると慣れてくるものです。
一番困るのは「便秘」です。
それもそのはず、「水なしで飲めて速効」の下痢止めはモルヒネではありませんが、腸内のμ受容体にくっついて腸の運動を止めるのです。
それと同じで内服のオピオイドも腸のμ受容体に拮抗しますし、脳内でも腸の運動を抑制してしまいます。
因みに下痢止めは血液の中には入らずに排出されます。
そして、点滴や注射での副作用で一番怖いのが「呼吸抑制」です。
簡単に言えば「息が出来なくなる」ことです。
しかし、これは過剰投与の場合で普通はありません。
そして、忘れて欲しくないのは・・・
内服のオピオイド系鎮痛剤ではどんなに大量に飲んでも呼吸抑制しません。
自殺しようとしてモルヒネの錠剤を沢山飲んでも、気持ち悪くなって嘔吐するのとフラフラするだけで死にません。
風邪薬殺人事件のように大量の風邪薬とアルコールを続けていると死にますが、モルヒネでは死にません。
怖さで言えばモルヒネより風邪薬の方が怖いんです(笑)
さて、モルヒネの使い方は置いておいて、タイトルを読み返してください。
タイトルは「モルヒネと神様」です。
どこに関係性があるのか不思議に思われるでしょうね。
最近、日本では血液サラサラにしか殆ど使われなくなった「アスピリン」は柳の木から抽出された物質の合成物です。
しかし、ヤナギの樹皮を鎮痛剤として紀元前400年のヒポクラテスの時代から使っていたそうです。
同じくモルヒネもケシから作られるアヘンから抽出した物質です。
アスピリンもモルヒネも元は天然物から発見されたわけですよね。
私は都合良く天然物から薬が出来るのか不思議でなりません。
やはり、神様がいて「おうおう、やっと見つけたか」なんて言っているような気がします。
抗癌剤のタキソールやタキソテールはイチイの樹皮から、インフルエンザのタミフルも八角(トウシキミ)だし・・
パソコンや4Kテレビなどはさておき、こと体に関しては神の手で踊っているように思えてならない。
まだまだ、薬になる天然物は多いのだろう。