小林麻央さん死去
家族や知り合いでもなくても、若い方が亡くなった話を聞くのは辛いものだ。
35歳未満で発症する乳癌を「若年性乳癌」というのはTVやネットでご存じの方が多いと思う。
若年性乳癌は家族の病歴との関係を言われるが、私が関わった若年性乳癌の方3名では家族歴は皆無だった。
しかし、何らかの理由でDNAに変異があり、BRECA1、BRECA2という乳癌抑制遺伝子に問題が無かったかと云うと分からない。
米国の女優でこの遺伝子に変異があることを知り、乳切された方のことは有名な話だが日本では保険適応の検査では無いので自費で検査するしか無い。
その費用は30万円前後のようだ。
なぜ、癌患者には検査しないか?と疑問を持つかもしれない。
既に癌を発症した人の遺伝子変異を調べても治療に影響しないから保険適応は無いのだ。
それよりも調べたい検査がある。
これも保険適応外の研究検査になってしまうのだが・・・
シトクロームP450と云う肝臓での薬物代謝酵素の検査だ。
カルシウム拮抗剤を服用している時にグレープフルーツジュースを飲んではいけないと云うのもこの酵素を阻害して強く効いてしまうからなのだ。
逆に西洋オトギリソウは酵素活性を高めるので分解が促進されてしまい薬物効果が出なくなる。
もちろん、全ての薬剤の分解にシトクロームP450が関係するのでは無いが、多くの抗癌剤ではこの影響があるのだ。
若年性乳癌の方が全てこの酵素が少ないかは分からないが、関わった若年性乳癌の患者さん全員に抗癌剤の副作用が強く表れたように思う。
抗癌剤の標準量はシトクロームが正常な人だけに適応するもので、これの活性が低い人には大幅な減量が必要だと思う。
シトクロームP450には種類があるが、一番大きいウェイトを持つのがCYP3A4だ。
がん患者さんでは無いのだが、お客様でこの酵素が少ないと思われる方が居られる。
今は高齢者だが、若い頃から鎮痛剤は2錠の規定だと1錠で十分に効く方だった。
今でも、腎機能は正常だが薬物代謝にCYP3A4が関わる薬剤は規定量でも過剰投与となり副作用が強く出てしまう。
種の保存としては遺伝子を少しだけ変化させておいた方がメリットがある。
それは血液型によりウイルス感染が少ない例でも証明されている。
何か突破的な致死的な問題が発生した時でも遺伝子の僅かな違いで、生き延びられる人が存在し、種を守ることが可能になるからだ。
シトクロームP450の研究検査で放射性同位元素を使うエリスロマイシン呼気テストがあるが、最近では放射線同位元素を使わない方法も開発されてきている。
これが保険適応になれば抗癌剤の投与量をコントロールでき、副作用や後遺症を減らせる癌治療に寄与するかもしれない。
今となっては小林麻央さんのシトクロームを調べることは出来ないが、もし治療前に調べて働きが弱いと分かっていれば治療方針も変わっていたかもしれない。
だが、腎機能検査のシスタチンCすら特別な条件以外に保険適応を認めない保健行政だから、期待は薄い。
鎮痛剤や風邪薬、マクロライド系抗生剤で副作用が強く出る方は注意して戴きたい。
最後に闘病中の方に勇気を与えた小林麻央さんのご冥福を祈ります。