抗癌剤と免疫
抗癌剤が強く効いてしまい骨髄の機能を低下させてしまった患者さんを何人も見てきた。
それは乳癌の患者さんに多く見られ、女性の生命力の強さと我慢強さが災いしたと言っても良いだろう。
副作用が強いほど効果が有ると嘯く医師も居るが、認容できない副作用に我慢して続けるものでは無いと思っている。
それに反して、抗癌剤を否定する医師もいて新刊を出す度に話題を醸し出しているのも困りものだ。
前回投稿した「がんと免疫」にも面白い記述が有ったので概略を記しておこう。
抗PD-1抗体阻害剤のオプジーボや抗CTLA-4抗体阻害剤の開発で免疫を阻害しているTRegを押さえ込めば免疫で癌を治せる可能性が高く評価されてきたのはご存じだと思う。
TReg細胞以外にも腫瘍免疫を負に誘導する細胞が有る。MDSC(骨髄由来抑制細胞)がそれだ。
このMDSC細胞を押さえ込む抗癌剤が存在する。低用量のゲムシタビン(ジェムザール)は膵癌、乳癌、中皮腫、肺癌、大腸癌でMDSC細胞を減少させる。
また、ドセタキセルは乳癌でMDSCを低下させるそうだ。
オプジーボの奏効率は20~30%と言われているから、TRegやMDSCを押さえ込んでも、それだけでは駄目だということだ。
T細胞やNK細胞にしつかり仕事をさせる免疫バランスが無いと駄目だと言うことだろう。
低用量の抗癌剤は効果が無いと豪語する医師も多いが、fulldoesでゲムシタビンを使用しても奏効率はけっして高くない。
奏効率が高くないのに膵癌や胆道癌ではfirstchoiceなのは延命期間が長くなるからだ。
とても興味深いことに奏効率が高いレジメンは生存期間の中央値は短く、奏効率が低くても生存期間の中央値が長いレジメンが存在することだ。
その理由がTReg細胞の阻害により免疫が頑張れることだとしたら、抗癌剤を否定する理由が減るだろう。
但し、低用量の抗癌剤は標準治療では無い。術後のアジュバントでは難しいだろうが、再発の場合は可能かもしれない。
しかし、再発となると低用量の抗癌剤で腫瘍の縮小を見いだすことは難しい。
原発と再発では癌の強さが違いすぎるからだ。
この矛盾を解消できるまで免疫チェックポイント阻害剤が更に改良されるか、もしくは複合して使用できるようになれば良いのだが。
現在、共抑制分子であるTIM-3(Tcell immunoglobulin,and mucin domain-3)やLAG-3(lymphocyte activation gene-3)の研究も進んでいるから、いずれは免疫で癌を治せる時代が来るかもしれない。
余談だが「がんと免疫」の編集をされた大阪大学の坂口志文氏はTReg細胞を35年も研究していて、日本人でノーベル生理学賞に一番近い男と言われているとか。
樹状細胞療法やリンパ球療法を受けようと考えている方が居られたら、ぜひこの本を読んで頂きたいと思う。
月額50万円の治療費を払う覚悟があるならば5400円は安いと思うのだが。