トールライクレセプター(tall like receptor)
ショウジョウバエから見つかったtall receptorが他の生命体にも存在することが分かり、トール様受容体と名付けられた。
「おいおい蠅かよ」と言われるかもしれないが、テロメアだってショウジョウバエから見つかったのだから、たかが蠅だと侮れはしない(笑)
トールライクレセプターを略して「TLR」と呼ぶが、ショウジョウバエで9個、ヒトでは10個のTLRが見つかっている。
おそらく未知のTLRが存在すると思うので、今後増えるかもしれない。
このTLRとは簡単に言えばアンテナの様なものだと思って戴ければ分かりやすいだろう。
アナログTVのアンテナと地デジ用のUHFアンテナと中華鍋を反対にしたアンテナでは受ける電波が違うようにTLRも受ける情報が限られているので多種存在しなくてはならないのだ。(アンテナが10個だとどんな放送が見られるのかは知らないが)
例えばTLRの2番はウイルスの糖タンパクや真菌の多糖(グルカン)専用のアンテナだ。
このアンテナに情報が入って来ることを「感作」と云う。
従って「TLR2は感染症を感作する受容器」と考えれば良いのだ。
ところで、一世風靡した「βグルカン」だがTLR2を刺激すると免疫はどのように働くかを考えると自ずから答えが出る。
免疫細胞は感染症だと誤解して「液性免疫」を亢進させる。
液性免疫とは後天的免疫とか獲得免疫と呼ばれる抗体でウイルスを攻撃する免疫のことだ。
癌患者の多くは液性免疫>細胞性免疫の状態であり、本来癌を攻撃する細胞性免疫(自然免疫とも云う)が働きにくい状態になっている。
そこにTLR2を刺激するものを入れて癌が良くなる可能性は少ない。
但し、高齢者などで液性免疫も細胞性免疫のどちらも低下している場合には、なんらかの刺激は両方の免疫を亢進させる場合がある。
だが、それは長くは続かない。せいぜい1ヶ月から数ヶ月が限度で、液性免疫の亢進は癌を生育させる環境になってしまう。
細胞性免疫を引き上げるにはTLR4を刺激するのがベターだと思う。
TLR4は細菌のリポ多糖を感作するが、面白いことに抗癌剤のタキソールもこれを刺激することが分かっている。
ウイルスには抗体で対処するが細菌は食ってしまえば良いので細胞性免疫で対処するのが体の中の基本である。
従ってTLR4を刺激すれば細胞性免疫を高めることが可能だと考えている。
だが、現実には一つのTLR刺激だけでは抗癌免疫は働かないようだ。
BRMstageの中には2つのオリゴ糖を入れてあるが、この2つのオリゴ糖は異なるTLRを刺激する。
開発時の治験でこのバランスを変えたところ、1週間で腫瘍マーカーが上昇して焦ったことがある。直ぐに回収して、新たなバランスのもので全員の腫瘍マーカーが下がった。
免疫チェックポイント阻害剤でTregを抑えることよりも、TLRを上手に刺激する方が癌には効果的だと思うが、同時に出来れば更に良い結果がでるやも知れない。
キンチョールに負けてしまう、たかだか蠅だが、そこからの研究が免疫の研究の出発点でもあるとは不思議な気もする。